Blut unt Weiß

伊藤計劃に感化された一連の文章の群れ。日記、少年マンガを中心とするオタク趣味の感想および世界を変えるための文章が置かれる。御口に合いますれば幸い

創作する?

書くだけ書いて、更新の意志がない物たちを供養しておこうと思ったので、連続で過去に書いたものを投稿する。ほぼすべて未完成のままだ。 以下の文の最終更新は2017年10月8日、とある。

 

 

 ネタが出た。書いていこう。

 

たぶん飯テロその他注意的な。アレだ。 

 

 

 くるっくーくるっく-♪

 くるっくーくるっくー♪

 くるっくーくるっくー♪

 くるっ

 ・・・五月蠅い。毎度のことではあるが、この音を選んだかつての僕はいったい何を思ってこんな間抜けで且つ耳障りな目覚ましにしたのか、今となっては知る由もないがなかなか腹立たしい。もっとも彼(僕)とこれのおかげで僕は今日の仕事に遅刻しなくて済むわけではある。そのうち変えてやろう、といつも思うのだが仕事が終わるころには忘れている。

 今朝は悪夢を観なかったことに少し安堵しつつ、のそのそと起き上がり、用を足し、洗面所へ向かう。

 過去というものはカビのようなものだ。非常に腹立たしく、目障りでありながら、物理的実態を持たないが故、怒鳴りつけることも殴りつけてやることもできない。カビや細菌には腹が立つが、その怒りをぶつけるべき相手がいない。そういうことだ。

 掃除をしながら怒り狂っている人間というものがこの僕以外にいるならぜひ会ってみたいものだ。掃除は過去から襲い掛かるカビだ。誰かがそれを払わねばならない。それは終わりなき仕事だ。いかなる営みにも余計なもの、邪魔なもの、クズは出る。それを払い続ける行為は、我々人類がいかなるものであれ営みを続ける限り付きまとう問題ではある。

 などと益体ないことを考えながら、僕は洗面所へ向かう。僕は洗顔にはせっけんを使わない。その代り冷水ですすぐ。ひたすらすすぐ。一回、二回、三回、四回、五回、六回、七回、八回、数を数えながら顔を水ですすぐ。さっきまでの役体ない思索もアラームに対するわずかなイラつきもここで洗い落とす。

 二十回。これが僕が毎朝すすぐと決めている回数だ。顔のべた付きも脳のワーキングメモリを不当に占有していた諸々も洗面台から流される。どこかのスポーツトレーナーの言葉だったが、心は体で整える、という言葉を僕は信頼する。僕の実感を言語に顕すなら、身体の目に見えない部分を便宜的に精神と呼んでいる、という感じだが。顔の表面も頭蓋の裏側もこれですっきりした。

 冷蔵庫から卵を二つ取り出す。調理は雑念のない状態で行いたい。

 くだらないオカルトではあるが、雑念は雑味につながるからだ。料理は完全な化学過程ではあるけども、摂食は宗教儀式でもある。それらを切り離すことは僕の食事および調理作法ではない。

 手早くボゥルに溶いて牛乳もお好みで、食パンを二切れ準備する。

 温めたフライパンにバターをひとかけら落とし、片面に卵を付けた食パンを投入する。卵に砂糖はいれない。今作っているのはおやつではない、朝食だ。

 フライパンから漂う香りと音にわずかに気分を高揚させるも、あくまでも冷静かつ流麗に。

 卵の面に火が通ったら、裏返して無地の面に焼き色を付ける。バターの風味とカリッとした食感を楽しみたい。

 二枚目を焼き始める。こちらは卵を両面に。

 焼きあがったフレンチトーストを半分に切って皿に盛りつける。付け合わせにインスタントのコンソメと昨日の残りのポテトサラダを添えて完成とする。いや、カットチーズも加えるか。

 まともに朝食をとるのは久しぶりだ。仕事がある日しかこのようなしっかりとした朝食は取らない。

「ふむ、悪くない。80点。」

 思わず声に出てしまった。焼きたてのフレンチトーストを咀嚼しながら、PCで今日の予定を確認する。何週間か前に入力しておいた予定表を文書読み上げソフトに読み上げてもらう。(東北なんとかとかいうソフトらしい。古い友人に昨年、贈与(おしつけ)られたものだ。使ってみると意外に便利で、声質もキンキンしてなくて落ち着きがあってよい。パッケージがいささかアレだが、予定の確認や誤字脱字の発見に使っている。)

 最後に仕事道具を確認する。昨日のうちに手入れしておいた道具をもう一度確認する。普通は上から配給されたものを使うのだが、僕は特別に私物の持ち込みを許可されていた。僕がこの仕事を気に入ってる理由でもある。ほかになり手がいないという事情もあるらしい。手に職をつけるといろいろ助かるな。替えが効きにくい技術職だから。

 少し自慢をする。僕の仕事はなり手が少ないといったが、それは過酷でキツイということではない。公務員なので安定度は抜群だし、特別手当もかなりあるし、なによりものすごく勤務日数が少ない。月に一回か二回、現場に行って一仕事こなすだけだ。仕事はさすがに一日仕事になるので、体力的に仕事一回につき三日はつぶれるが、それでも週五日八時間勤務よりはずっとましだ。人間、仕事ばかりしてられるほど暇ではない。

 年収はまぁ、普通くらいかもしれないが、一人暮らしを気ままに続けるには十分すぎるほどもらっている。・・・そろそろ時間だ。

 今朝は仕事用のルーチンを済ませ、フラットな気分で家を出ることに成功した。

 ラッシュは避けられるように出ているので電車内は長閑なものだ。満員電車には生涯乗りたくはないものだな。現着する。毎日勤務している職場の者と顔をあわせる。皆どこか一線を引いた態度で僕に当り障りなく挨拶する。人間嫌いな僕にとってはこれが逆にありがたい。たまにしか顔を合わせないうえに仕事上のつきあいしかないやつと話すことなど何もないから。ここもこの仕事を気に入っているポイントの一つだ。

 形式的な(本日の業務内容の詳細や確認、その他煩雑な)事務を長々とこなし、普段着慣れないコスプレ気分のスーツから仕事用の服に着替える(公務員だからとてなぜスーツで勤務しなければならないんだろう、どうせここで着替えるというのに)。ここの更衣室は僕専用でロッカーも一つしかない。防水防臭加工された皮のブーツに履き替え、装備のすべての確認を終えた。最後に持参した「愛刀」を携えて、その部屋へ赴く。

 廊下の向こうから本日の「業務」が連れてこられた。中肉中背のおよそ40代くらいの男性だ。表情は落ち着いていて、暴れそうな気配はない。ひげなどもなく、つるりとした顔面だ。瞳はうつむいているのか、生気がないのか、それとも最後の安らかさに到達したのか、よくわからない。もっとも、最後まで油断はできない。

 見慣れた手順が眼前で繰り広げられる。囚人がひざまずき首を垂れる。

 僕は愛刀を振りかぶる。わずかな静寂ののち、全身が適切なタイミングと強度で、ある場所は弛緩、また別の場所は収縮する。

 手の内、よし。

 足裏、フラット、わずかに上方向への入力、よし。

 膝、適切な弛緩、のち固定、よし。

 股関節、動力源、よし。

 脇の下から広背筋、初動、最速、よし。

 胸から肩にかけてのヌケ、よし。

 刃筋、確認するまでもなく、よし。

 

「・・・ッ

 

 

 

 

 

 

 

・・・」

 

 

 

 

 

 

 ゾブン!ゴツ・・・という音をゆっくりと僕の脳、大脳新皮質のあたりが認識するころ、「業務」のすべては終了している。外界や身体各部位からの入力を超高速で僕の身体、神経、筋肉、脳の奥の方が処理している間、僕の言語、思考はその仕事を失う。思考は表層の上澄みに過ぎない。思考はあとから己の動作を反芻して採点するだけだ。

(・・・まぁまぁだ、90点。)

 その場をほかの職員に任せ、着替えに引っ込む。刀の血を処理したあと、服を着替える。ズボンの内側が汚れていることに気が付いた。「業務」の罪状と先ほど「見え(フラッシュし)」たものを思い出す。ドッと疲れた。

 

 

 僕の仕事は社会の「掃除」だ。誰かがやらなければならないホコリ取り。カビ掃除には怒りを覚えるが、「業務」にそんな雑念は交えるわけにはいかない。コレは掃除という物理過程だが、同時に宗教儀式でもある。これで彼の咎は僕に「うつ」った。

 

 僕の名は、巡沢、巡沢竜胆(めぐりさわりんどう)。死刑執行官、巡沢竜胆だ。

 

 

 

 

(創作ここまで)

 

 

 

 

 だいぶ時間がかかった。四時間ほど。気まぐれの落書きのようなものなので続くかどうかはわからない。というか今まで書いたもので終わらせたものがない。なんてこった。

 

もっと力を。おわり。